さて、「日本語教育」という観点からもう一つ訪問した場所がありました。「ホーチミン人文社会科学大学」の日本学部です。ここはARBAの事業地というわけではありませんが、法政大学の正式な協定校ということで、今回の研修中に訪問するにあたりARBAがサポートをさせていただきました。ちなみにここは、私自身が留学しベトナム語を学んでいた大学でもあります。
一日目の講義の様子 |
日本学部には二日間かけて訪問し、特別授業を行いました。授業のテーマはずばり「キャリアデザイン」。日本でも聞き慣れないこの単語は、ベトナムでは全くの新しい概念。しかし自分のキャリア=人生をどのようにつくっていけばよいかという問題は、双方の大学生にとって共通の関心事です。
講義担当の御園生さんと、通訳のトアさん |
一日目の講義では、「まなぶこと・働くこと」が主題でした。私たちはなぜ学ぶのか、学びに終わりはあるのか、そして私たちは何のために働くのか…。「生きることは、自分自身を好きになり、肯定すること」という哲学的な要素を多分に含んだ講義、日本学部生の皆さんは新鮮なテーマに真剣に耳を傾けていました。
二日目のワークショップの様子 |
二日目は、グループに分かれてのワークショップ。法政大学からキャリアアドバイザーの葛西さんが参加してくれました。あるエクササイズを使い、各自が自分は一体どんな性格で、何を好んでいて、それは将来どんな風に活かしていけばよいのか…について考えました。グループ内ではキャリアデザイン学部生をリーダーとして、終始日本語を使って話し合いを行いました。エクササイズ自体にははっきりとした結論が用意されているわけではありませんが、自分自身に向かい合い、自分自身を他者に伝えるというプロセスの大切さは共有できたように思います。
グループ内で自分自身について語りました |
「村山日本語学校」と「人文社会科学大学」の二つを通して、ほんの少しですが、日本語教育の現場を垣間見ることができました。現在ベトナムの(もちろんベトナムだけではないと思いますが)日本語教育を取り巻く環境は厳しく、日本人のネイティブ教師の不足という困難を抱えています。かつて村山日本語学校のルオン校長がこんなことを言っていました。「日本語を知ることは日本を知ることであり、日本を知ることは日本人を知ることです」。現状として日常的に日本人を知る機会が少ないベトナムの学生たちにとって、今回のキャリアデザイン学部の研修グループの訪問がよい機会となったことを願うばかりです。
またキャリアデザイン学部の皆さんにとっても、ベトナムの人と日本語を使って直接話をすることができるのは、大変貴重な機会でした。特に日本学部では大学生同士の交流だったことで、キャリアデザイン学部の皆さんはベトナムに来て初めて、自分と同世代で同じ立場にあるベトナムの人と出会えたことになります。国や文化は違えど、同じ年頃として抱える悩みは似ていて、授業を通してそれを共有することもできました。異文化を知ることは、異国を知ることは、同時に自分自身を、自分の国である日本を知ることでもあります。この研修を通し、キャリアデザイン学部の皆さんがベトナムのことだけでなく、日本とそして自分自身を理解するきっかけになったとしたら、それはとても嬉しいです。
(きむら)
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